吉と出るか凶と出るか?!健全なイメージを目指す「Wii伝言板」

先日のエントリでWiiインタビューのうち似顔絵チャンネルの紹介をしましたが、今回はだいぶ前に公開されている割に、あまり話題に上っていない1つ前のインタビュー「Wii伝言板」について紹介してみたいと思います。

第3回「Wiiは家族のパブリックスペースなんです」 - 社長が訊く Wii プロジェクト - Vol.3 Wii チャンネル編

このWii伝言板について、自分が注目する機能は以下の二つです。

  • 買ったゲームの伝達システム
  • ゲーム履歴の強制記録

○据置での口コミ効果を狙う「購入ゲーム伝達システム」

一つ目の買った「ゲームの伝達」という点については、以下のようなものをイメージしているようです。

玉樹
例えば、新しいゲームを買ってきて、Wiiで立ち上げたときに、
「このゲームを買ったことを友だちに知らせますか?」
という質問が画面に現れる、とします。そこで「はい」と答えると、友だちのWiiのカレンダーに、「○○を買ったよ!」っていうメッセージをポンと貼ることができます。
そういうふうにゲームの中から友だちに情報を送ることもできますし、自分でメッセージを作って送ることもできます。
あ、いま言った例は、決定ではなくて、検討中のものです。
そういうようなことができるんだな、と思っていただければ。

WiiPreviewの講演で、岩田社長が「持ち運べないWiiはDSのような口コミ効果を見込みづらい」と言っていましたが、それについての対策の一つがこれなんでしょうね。お互いにフレンドリストを登録している間で、ゲームを買ったことを相手に意図的に伝えることができるわけです。それも、わざわざ会話などで買ったよ!とか言わなくても。感覚的には、はてなダイアリーで他のはてなダイアリーについてリンクを張って言及すると、自動的にトラックバックが送られるのと似ている感じでしょうか。ユーザは気軽な操作で、相手に感心があるゲームを伝えられるわけで、結構ありな方法だと思いますね。

○健全性を追求する「ゲーム履歴記録システム」

もう一点は、ゲーム履歴の記録について。これは、かなりの冒険的なアプローチのように思えます。

黒梅
Wiiでは、いつ、どのゲームをどのくらいプレイしたかという「プレイ履歴」が本体に自動的に記録されていきます。
まあ、ここまでは議論になるようなことではないんですが、議論になったのは、この「プレイ履歴」が消せないということです。
まだ仕様変更の余地はありますけれども、いまのところ、消せないようになっています。

つまり、家でプレイしたゲームの時間を、親が確認できるシステムと言うことです。岩田社長的には、この履歴機能どころか、「1時間で強制的に終了システム」すら検討させたというのだからすごいですね。「いかにして親から嫌われないゲーム機にするか」ということを、本当に一から徹底して考え抜いて作られているということが伺えます。

たしかに、アメリカなんかでは特に子どもの行動への監視イメージが強くなっており、子どもの通信内容などを全て遠隔監視できるようなシステムの需要も高まってきている聞きます。日本でも、そこまで過激ではないですが、少子化も進み、過保護な親が増えてきているところ。そうした状況では、親は子どもが健全でない成長をすることは、好ましく思わないものでしょう。

Nintendo DS ブログでも、この伝言板の履歴機能を取り上げられています。

季節報 Nintendo DS ブログ : ちゃんと考えてる企業とそうでない(?)企業

上記記事でも述べられているように、岩田社長的には、親が子どもがゲームすることを毛嫌いしないこと、むしろそれを通じてコミュニケーションを生むことに期待しているのでしょうね。家族用にアカウントやパスワードを用意しないところもそう。つまり、家族は皆気兼ねなく交流し、ゲーム程度にプライバシーは求めず、ゲームをきっかけにコミュニケーションしてもらいたい、ということなんでしょう。


ただ、問題に感じるのは、Wiiを欲しいと思う子どもから見た視点です。親が一方的に子どもに買ってあげる条件であれば、こうした親にとって安心できる機能は受け入れやすいでしょう。ただ、そもそも「欲しい」と思う子どもからしてみれば、このゲーム履歴は自分の遊び時間を親に監視されてしまうのではないか、という心理的圧迫感を覚えてしまうかもしれません。感覚的には、GPS機能付き携帯を持たされて、常に自分のいる位置が親に監視されてしまうイメージでしょうか。常に親におもちゃを買ってもらうしかない低学年の子どもならいいかもしれませんが、思春期の中高生などは、こうした機能に拒否反応を示すことも考えられます。

また、家族間のプライバシーを重視する、という家庭も結構あるように思います。どうぶつの森も、本来は1本のソフトを家族で共有し、1つの家を一緒になって大きくしたりインテリアに凝ったりすることが想定して作られていたのでしょうが、結局その家族で家を共有するということで、知らないうちに家具が動かされたりものが増えたりするのが嫌で、家族1人ごとに購入する例が多数発生してしまいました。任天堂的には売り上げが伸びたのでうれしい誤算なのかも知れませんが、このWiiの目指す家族像は、その誤算部分をあまり素直に受け入れてないようにも見えます。たしかに、Wiiで個人ごとにアカウントがあり、パスワードがあったりすると興ざめとは思いますが、ちょっと理想の家族像を限定しすぎているかなぁ。という印象はしないでもないです。

○「健全なイメージ」をゲーマーがどうとらえるか

こうして見てみると、学校で例えるならWiiはいわゆる「優等生」、PS3は「遊び人」って感じなんですよね。優等生は、たしかに先生やPTAの親御さんとかには受けはいいのですが、逆にあまり勉強ができない人や平均的な人から見ると「いい子ぶっちゃって…」と疎まれることもあります。逆に遊び人は、勉強もあまりできず先生や親からの受けは悪いですが、平均的な人はそのちょっと悪ぶった感じが「かっこいい」と感じたりもします。まあ、とくに思春期の時ですけどね。

Wiiはとにかく、健全なゲーム機を明確な意志を持って目指しています。そして、そこから生まれる「理想的な家族像」をひたすら追い求めているようにも見えます。あとは、実際にどういった層がゲームを買ってくれるのか、それにかかっていますね。質疑応答などでも、Wiiの初期購入者はやはりゲーム好きであり、その後その家族にゲームを触れてもらう機会を増やすことで、家庭内でのゲーム人口を狙う、というのが任天堂の戦略のように思います。しかし、あまりにこの非ゲーマー向け、親御向けの「健全なイメージ」ばかりを前に押し出してしまうと、肝心の初期需要であるゲーム好きを逃してしまうんじゃないかと、心配になります。

ゲームを買うパターンとしては、子どもが親にねだる、子どもが自身の小遣いで購入する、独身者が独力で買う、家庭持ちの親が自ら買う、といろいろんなパターンがあります。その中でも、なんだかんだ言って、やはり最初にほしがる率が高いのは10〜20歳ぐらいの男性でしょう。果たしてこうした層に、健全すぎるWiiをどの程度受け入れてもらえるかが、読みにくいところではあります。逆に、親がプレゼントで買ってあげるとか、そう言ったケースには非常にマッチする感じはしますけどね。

「DSはゲーマー以外に売れているからWiiも大丈夫」という意見はありますが、岩田社長が明確に「DSのようには据置はうまくいかない」と理由付きで明言しています。そのための「購入ゲーム伝達システム」だったりする訳ですが、それが成功するかどうかは未知数です。また、「PS3が生産トラブルや初期不良、ロンチ不足などで自爆する」という可能性もあることはありますが、そうした他力本願なことはすべきではないでしょう。SCEも必死なだけに、なんだかんだ言って間に合わせてくる可能性も十分ありますから。もう一つ、「PS2が縮小しているからゲーマー需要は重要ではない」という意見もありますが、なんだかんだいってもゲーマーの方が新規ハードの初期ユーザでもあり、ネットなどでの声も大きいんですよね。携帯の時と違い、据置での絶対王者PS2。それだけに、「勝ち組のイメージ」というのはDSとPSPの時とは違っていると思いますので。

上記のような点から見ても、「親に好かれるハード」であっても「ゲーマーに嫌われるハード」であっては、特にロンチにおける口コミの面でかなりのマイナスを背負ってしまうように感じます。発売が2週間ほど遅いWiiの場合、そうしたゲーマーの声がPS3発売以降強烈に発せられるでしょうから、ゲーマーに嫌われないことも重要でしょう。(E3以降のPS3バッシングも、なんだかんだ言ってゲーマーが中心でしたし。)


とはいえ、Wiiのリモコンなどを使った斬新なインタフェースは、ゲームの別次元への進化を予感させ、ファミ通と言ったゲーマー向け雑誌でもE3後のアンケートでは圧倒的支持を受けた背景もあり、一般人よりもむしろゲーマーに支持されていた印象があります。ただ、その支持の中のいくらかは「PS3が高すぎて買えない」というのが混じっていた面もあり、PS3値下げ以降そういった値段という面だけでWiiに流れていた層がPS3支持に戻った感じもするんですよね。
個人的には、非ゲーマー親御向けWiiチャンネルの健全なイメージの話ばかりではなく、もっとRedSteelやゼルダElebitsなどのWii独自のソフトの魅力を語り、ゲーマーのワクワク感を高めていって欲しいな、と思いますね。(まあ、キラーであるゼルダの邦題すら出てない状態なので、ロンチに向けておそらくどこかのタイミングで大量のPR活動を行ってくるとは思うんですけどね。)


はたして、岩田社長のめざすように、誰にも嫌われないゲーム機になれるか、それとも単にゲーマーが親に隠れてプレイしにくいゲーム機になってしまうのか。まずはロンチの両陣営の出足が一つの指標となると思います。