ロコロコに見るマスコミ記事の裏側

7億円とも噂される大きな広告費をかけて大々的に宣伝した割に売れなかったソフトとして、自分も記事に取り上げたロコロコのプロモーション活動(記事)。その苦戦状況に対する注目度は、自分の想像した以上に高かったように思われます。

発売から1ヶ月程度立ちましたが、初週3万本程度だったロコロコの売り上げは現在6万弱。比較的継続して売れているとは言えますが、それでも広告規模に比べると絶対数は少ないですよね。
ソフト売り上げデータ - データで見ミるDSとPSP
(もっとも、『伝説の“ヒット予報士”』らしいTSUTAYAの稲越氏によれば、「PSPのヒット基準は5万本」らしいので、それはクリアできているみたいですがw。)
MD稲越のヒット予報:本命・北斗の拳、SDガンダムも予約好調−ゲーム:MSN毎日インタラクティブ

○予定調和なCDリリース

そんな、世の中の企業にとっていい反面教師になってしまったロコロコですが、SCEの確保した広告費用はまだまだ使い切っていない模様です。様々な媒体での記事、TV番組内での紹介などのプッシュが取られている模様です。

そんな中、一見おしゃれながら、「ゲームの内容がよく分からない」と以前の記事でもいろいろ指摘されていたCMについては、その意味不明で覚えられないCMが、『問い合わせ殺到により急遽CD発売!』というなかなか素敵な内容と共にCD販売されています。

 そして満を持しての日本では、6月末からCMが放送され、「ロコロコのうた」が流れるや否や公式ホームページの掲示板に「あの歌はなに?」「歌詞は何語?」「キャラクターがかわいい!」などの書き込みが殺到、発売元であるソニー・コンピューターエンタテインメントには連日問い合わせの電話が前例がないほどにかかり、ゲームソフト自体もPSPプレイステーション・ポータブル』本体を牽引するほどの今までにない売上をみせているそうだ。
PSP、話題のソフト「LocoRoco」のテーマソング「ロコロコのうた」、緊急CDリリース! CONFIDENCE ランキング&ニュース -ORICON STYLE-

ちなみに、上記で述べられている公式掲示板というのは、自分では確認できていません。一応、公式サイトにはUser's Voiceというページはありますが、6/9までのものでまだCMは公開されていなかったはずですし。
**LocoRoco**「ユーザーズ ボイス」|投稿されたメッセージをご紹介
また、ロコロコ発売の週のPSP本体の売り上げも約35,000台と、前週より約3000台増えた程度。とても『本体を牽引するほど』な売り上げを見せているようには見えません。そのほかの記述も含め、ものの見事なまでの美しい提灯記事でございます。(ここまでずれていると、記事書いている人も楽しかったかもしれませんねw。)

○ロコロコ関連記事裏話 *1

ロコロコ関連の記事について、日経BPのサイトでロコロコに関する記事を書いた米光一成氏が、担当の人から依頼された内容をブログで公表されています。

こどものもうそうblog | 「ロコロコ」の距離感、新しいアニメーション体験としてのゲーム

上記米光氏のコメントによれば、以下のようなコメントも入れてほしいと依頼されたらしいです。

“世の中では、「スローライフ」ということが言われている。あくせくするばかりでなく、大切な人と過ごす時間や地元の自然といった目の前の幸せを、ゆっくり時間をかけて楽しもう、という考え方だ。「ロコロコ」は、この考え方を取り入れた最初のゲームと言えるのではないか。前回のコラムで、飯田氏が「『エヴァンゲリオン』の世界は、私たちの世界を映す鏡になっている」と語っていた。これは、ゲームの世界全体にも言えること。だとすれば、「スローライフ」の考えを取り入れたゲームは、今後、どんどん増えていくことになるだろう。「ロコロコ」は、その先駆けとなる作品だ。”

「それなんてウリジナル?」みたいな内容ですね。スローライフの走りは明らかにどうぶつの森とか牧場物語とかの方が早いことは自明なのに、あたかも「ロコロコがスローライフの先駆者」みたいな内容を依頼してくる日経の人は一体何を考えているんでしょう?SCEAのハリソン氏の「3DはPSが起源」という発言とレベルが変わらないというか。


ちなみに、この依頼に対して、「子どもな対応」と自称する対応を取られています。
新しいゲーム体験「ロコロコ」〜従来のスリルや操作感はない…けど楽しい - ゲームデザイナーが斬る話題のゲーム - nikkeibp.jp

”といった流行分析をnikkeibp.jpの担当の人がしてくれた。”という言葉をつけただけなのがちょっと面白いですね。

○トレンドを「紹介する」より「創造しようとする」日経

上記記事の連載は、日経BPのサイトにおけるトレンドを紹介するコーナーとなっています。
トレンド - ライフスタイル - nikkeibp.jp

日経と言えば、日本経済に多大な影響力を持ち、ビジネスマンの多くが何らかの媒体でチェックしているマスコミではあるのですが、そのベクトルが経済に向いているだけに、どうも自分には「恣意的なトレンド作り」が感じられてなりません。一般のマスコミが政治的な思想、背景で偏見じみた報道がされることがあるのと同じように、日経の記事にはどうにもお金のにおいが感じられるのですよね。

impressやITmediaなどでは「PR記事」と題してあからさまな記事が載ることがありますが、こちらは最初からPR記事だと分かっているので問題はないのですが、日経の場合、経済全般の雑多な内容を取り扱っている分、その記事が広告記事なのか純粋な報道なのかが区別しにくいんですよね。経済に関する貴重な情報を多数載せているだけに、ビジネスチャンスを探るために情報を知ろうとする読者も多数います。しかし、逆にそこにつけこんで、様々な企業に都合のいいように情報操作している印象もします。
また、すっぱ抜き報道などもよくやらかしますが、これにより消費者の動向が左右されてしまうこともあります。結果的に、特定の企業が利益を生む方向に進むこともあり、この手のすっぱ抜き記事についても、きな臭いものが感じられますね。まあ、マスコミとは行っても広告料収入が大きいわけで、自然といろいろなところに大人の配慮が入っているだけなのかもしれませんが。

○マスメディアVS口コミの広告活動の行方は?

今回のロコロコの件といい、マスコミ主導型の盛り上げ方は、最近のネットにおけるブログ、掲示板の普及で以前ほどの効果を発揮しにくくなっています。提灯記事も、他の情報ソースがネットにあふれているので、照らし合わせればどこが不自然か分かったいますしね。

一方で、ブログなどの口コミ要素を売り手がうまくコントロールできるかというとまた微妙なわけで。うまくやらないとすぐ炎上してしまい、逆効果になってしまいますし、かといって何もしなかったら広まりませんし。ただ、基本的には口コミで広まる要素としては「質の高いものを作ること」、「誰かをまきこみたいと思う要素をもうけること」なんだと思いますけど。ゲームで言えばDSのようにコミュニケーション要素や直感的に誰でも楽しいと思える要素、アニメで言えばハルヒのような元ネタ探し要素なんかがそうでしょうね。

とはいえ、まだまだブログもマニアックな域は出ていないと思います。はてなの注目記事でも、上位にくるのはアニメやゲーム、アイドル関連の記事が多いですしね。こうした大衆の感覚ではどうしても主観、偏見が入り交じり、さらに集団意識からあらぬ方向に突っ走ってしまうこともあるので、不確定要素も多く、供給者側から見たらまだまだつかみづらい広告手段だと言えるでしょう。一般マスコミによる広告も、なんだかんだいって受け身な消費者に対する刷り込み効果はまだまだ絶大なところがありますし。


ちょうど広報活動も、今が過渡期のように思います。10年後、20年後、果たしてどういった広告手段が主流になっているのか。その変化をリアルタイムで見ていくのも楽しそうですね。

*1:※本段落について、ことの詳細を米光氏が補足されていますので、詳しくは次の文章をご覧ください。こどものもうそうblog | ぼくの「ロコロコ」大好き原稿を、提灯記事よばわりすんじゃねぇって