ロコロコの苦戦に見る、プロモーション活動の課題

7/13に発売された、PSPLocoRoco。かわいらしいキャラクタ、ぷよぷよとした雰囲気、独特なゲーム性など、PSPの中では自分も関心を持っていたタイトルです。実際、自分も昨年の東京ゲームショーで体験しており、「速度の遅いソニック」という印象ながらも、ライトな層には受けそうなよいゲームだという印象でした。
- TGS2005レポート 〜ゲーム編〜

しかし、そのソフトそのものがかすむほどすごかったのがSCEの広報活動。気合いの入れ方がすさまじく、2chのゲーム店員スレでは、「広告費7憶円」という情報が店員から聞かれたり、SCEのCM枠をすべてロコロコに差し替えるといった情報が出ているぐらいです(ロコロコCM)。また、各種朝刊でも見開きでロコロコがどーんと記された広告を出したりもしてましたし(広告の写真)。


それだけSCEが気合いを入れて広告を打ったロコロコですが、その注目の初週発売について忍さんのところで速報の情報が出ています。

「実況パワフルプロ野球13」トップ獲得も前作比で大幅ダウン|忍之閻魔帳

結果としては、初週は3万程度。先日出した「どこでもいっしょ レッツ学校!」も初週1万4000本ぐらいだったので、その倍以上と言うことからすれば、まあ数字的にはこんなものか、という気もしなくはありません。ただ、このSCEが費やした広告費を見ると、とても見合った数字だとは思われません。7月、8月はDSのソフトもそれほど大作がないと自分も前に言ってましたが、その中でも異色で評判も微妙な「プロジェクトハッカー」にすら負ける状態。これは正直以外でしたね。(まあ、プロジェクトハッカーもCMは非常に面白そうなつくりで、大量に流していたようですけどね。)

このプロモーション活動と売り上げの差にあるものはなんなのか?今回のロコロコの例もふまえて、少し考えてみたいと思います。

ロコロコの大々的広報活動

まずは、今回のロコロコの広報活動の内容を、SCEの広告塔でもあるファミ通の記事でざっと振り返ってみます。

先にあげたCMや新聞もあわせると、これでもか、と言わんばかりの広報活動ですよね。さすがはSCE、という印象すらうけます。広報活動の規模としては、Newスーパーマリオなどと比べても決して負けていないレベル何じゃないでしょうか。

思うに、SCE的には、毎年かなりの額の広報活動費を予算であらかじめ確保しているのだと思います。毎年その広告費を、SCEの出すソフトに戦略的に割り振って宣伝を行っているんじゃないかと予想します。去年で言えば、GENJI、ワンダと巨像ローグギャラクシーでしょうかね。
今年は、元々春にPS3が出るはずでしたから、予算自体多く確保していたでしょう。にもかかわらず、PS3は延期、据置ゲームもPS3向けを中心に開発していることから、結果的にSCE的にプッシュするソフトが乏しくなったんじゃないでしょうか。そのために、今回のようにもともと何十万も売れるようなジャンルのゲームでないロコロコに、過度な広告費が費やされたのではないかと予想します。

プロモーション「なし」でも「だけ」でも駄目

発熱地帯さんでも、最近プロモーションなどについて、コメントがなされています。
発熱地帯: 実は俺、プロモーションって言葉が大嫌いなんだよ
基本的には、クリエイター側が売れない理由をプロモーションのせいにするのは間違い、というところでしょうか。確かに、そういった愚痴をこぼす人は実際にいそうですよね。なんでもプロモーションのせいにしていては、真に価値あるものにならないというのは非常に同意です。

とはいえ、全くプロモーションせず、いいもの作ったら売れる、というのはあまりない状況しょう。DSのサードのソフトでも、ソフトの評判はいい割に、CMが少なかったりして知名度が少なく、いまいち売り上げにつながっていないものもいろいろありますし。

勝ち組扱いされる任天堂でも、「押忍!戦え!応援団」などはプロモーションがいまいちだった例だと思います。濃いゲームの雰囲気が一般受けしにくい、というのはあるかもしれませんが、それでもCMが単にゲーム中の寸劇を実写で再現しただけ、というのは正直お粗末でした。あれでは応援団の本質であるリズム感、操作性の楽しさが全く分かりませんし。自分も、正直CMなどでは全く引かれなかった口ですが、2chでアップされていた実際のプレイ画面を見て、その圧倒的なリズム感を感じることができ、購入してはまったわけです。
最近では任天堂も学習したらしく、CMでゲーム画面を積極的に表示するようになっています。マリオ3on3なんかは、タッチペンを使ったドリブルやパスをCMでわかりやすく紹介しており、かなり好印象ですよね。これが応援団のときも出来ていたら、もうちょっと売れていたかな、と思わないでもありません。
Touch-DS.jp - Media Gallery


一方で、今回のロコロコなんかだと逆のケースですよね。ある意味、過剰なプロモーションをされすぎな印象。この状況だと、ロコロコを開発したクリエーターの方にとっては相当なプレッシャーとなっているでしょう。そして、この失敗と言っていい初回売り上げの結果、下手したらその責任までもクリエーターに振ってきそうですよね。これはこれでいまいちなケースに思えます。ロコロコの場合は、ターゲットがライト層の割に、その対象の多くはPSPを持っていないわけです。そうなると、ロコロコをプレイするためには、2万5000円もの出費が必要となるわけです。つまり、その価格こそがこの例では最大のネックだったわけで。ゲームのコンセプト、広告戦略と、そのターゲットがゲーム出してもよいと思う価格帯が根本的にずれていたんじゃないでしょうか。

よく「どこでもいっしょ」「ぼくのなつやすみ」「ロコロコ」という今年のPSPのライトタイトルを、「DSで出していたら売れていたのに」というコメントがされますが、それはつまり、すでにDSを持っている、もしくはDSを買えばすでに多くのライトでも出来るソフトがそろっている、という土壌があるからです。PSPは、いわゆるPS2のユーザ層をそのまま持ってきただけ(+動画視聴ユーザぐらい)なので、ロコロコのようなゲームを売るには、まさに本体を売るところから始めないといけないんですよね。それにも関わらず、その他のライト向けラインナップは貧弱な状態。さらに、昨年末からのDSの圧倒的な強さで、ライト層から見ればすでに「携帯ゲーム機」=「ニンテンドーDS」という状態。本当に、SCE的には本当に一から始めないといけない状態なんですよね。こうした状態では、任天堂がDSのTouchGenerationでこつこつと広報戦略をしたように、徐々に下地を作っていく必要があるのですが、ロコロコはとにかく金をかけて一気にライト層を獲得しようとした。受け入れる土壌が出来ていないのに、露出度だけ高めても、そりゃ効果薄いですよね。

段階をふんだ新市場開拓が必要

自分が思うに、プロモーション活動は基本的に、「きっかけづくり」なんだと思います。どんな優れたソフトでも、その存在を知らなければ商品を買ってもらうことはありえませんので。とにかく、多くの人に知ってもらうこと。それがプロモーション活動の意義でしょう。市場開拓、という視点で見れば、顧客という種をまく、いわば「種まき」のようなものかと。

しかし、荒れ果てた土地に、単に種をたくさんまいたからといってもそれが育つはずもありません。少しでも根付きやすくする工夫が必要です。そのためのカンフル剤が、「話題性」「実用性」「低価格」といった、非常に直接的でわかりやすいコンセプトなのだと思います。そういった材料を用いて、新規顧客にまずは購入してもらい、根付いてもらうこと、これが非常に困難で、重要なわけです。これが楽にできるようなら、誰も苦労しませんよね。DSも、丁寧な積み重ねを行って、やっと一年後に芽が出た形ですし、一朝一夕にできるものではありません。
あとは、いったん根付いたらそれを丁寧に育てていくことでしょう。このあたりも、任天堂は段階をふんでちゃんと戦略しているように感じます。テトリスDSやNewスーパーマリオえいご漬け、お料理ナビなど、脳トレなどでつかんだ層に対する「2本目」のソフトとして、手を出しやすいソフトを多数そろえています。特に、Newスーパーマリオのようなアクション要素のあるものを多くのユーザに体験させられたのは、今後さらにアクション性の高いものを売っていく上では、非常に重要なステップだったでしょう。この先、Newマリオを買ったようなユーザにさらにゲーム性の高いゲームを買ってもらえるかどうか。まだまだやるべき課題は多数残されていると言えるでしょう。ライトユーザでは手が出しにくい、でもやってみるとおもしろい、そんなゲームを作ってプロモーションで多くの人に広めていく、そういった積み重ねが今後も必要だと思います。


PS陣営の得意とする「ゲームらしいゲーム」の場合、すでに土壌はできあがっています。消費者はゲームを見るだけで、どんな要素が面白そうなのか、簡単に理解してくれます。そう言った意味では、初期の開拓作業がいらないだけに、販売戦略は圧倒的に楽です。ただ、PS2圧勝の時代にあまりに同じ土壌ばかりにサードが集中し、土地を広げることもしなかったため、土地がやせ細って現状ソフトが売れなくなっている訳です。サードは、未だやりやすいPSPでゲームを作っていますが、こんな状況ではなかなか成功しないのは自明でしょう。限られたファンに売るために声優・ムービー・凝ったシステムなどばかりに力を注ぐようでは、市場は狭まるばかりです。

サードとしては、任天堂がこのまま地道にDS市場を「ゲームらしいゲーム」が売れるぐらいまで開拓してくれるまで待ってから本格参入すれば楽なんでしょうが、それも難しい話です。任天堂も、コアゲーマー向けのラインナップは少ないですし、先に挙げたようにファーストメーカーとしてまだまだ窓口を広げるための課題は山積みなので。
むしろ、サード自らが、自分達の作りたいゲームが売れるよう、市場を開拓していかなければいけないはずです。せっかく任天堂が窓口を広げてくれるのだから、大量につかんでいるライトゲーマーを逃がさず、徐々にでもゲームに慣れさせて行かなければ、サードのソフトが売れる環境は整わないでしょうし。現状では、せっかく任天堂が種をまいてちょっと芽が出たところを、育ちきる前にどんどんサードがつみ取っているだけにしか見えないので。PSPでソフトを出すにしても、単に続編と移植ばかりでは市場が育つはずもありませんし。

もちろん、今ないところに市場を作り出す作業というのはそう簡単な話ではなく、下手な変化は収入源であった保守的なゲーマーから反発をくらうこともあるでしょう。ただこのまま、どのメーカーも徒党を組んで過去の成功例をなぞるだけでは、緩やかにサードが全滅していくだけでしょう。それだったら、むしろ各社博打を打って、成功失敗がさまざま起きた方が、ゲーム市場としては未来があるように思います。


今回のロコロコのように単に深く考えずただ種をまくだけとか、DS知育ゲームのように任天堂が種をまいて芽が出たものに群がって片っ端からつみ取るだけでは、あまりに刹那的で未来がありません。SCEも、サードも、マスコミも、長期的にゲーム市場を発展させることを考えた取り組みを行ってほしいものです。サードが体力的に難しいなら、本当は任天堂のようにファーストであるSCEがやるべき何でしょうけどね。実際、PS1のときはやっていたわけですし。でも現在では、肝心のSCEが「ゲーム機じゃない」と、ゲーム二の次発言しているので、望み薄です。何とかサードに奮起してほしいものですね。