ゲームと映像のHD化についての考察

先日、Xbox360の概要が盛大に発表されましたが、そのインパクトは想像以上に低いものでした。実際、ブログや2chでの反応も、批判的な内容が大勢を占めています。
Xbox360では、特に「HD化」ということを表に押し出しています。HD化とはつまり、1080i, 720pへの対応と言うことです。しかし、このHD化についても、消費者の反応はいまいち鈍いものでした。
「HD化」といえば、今現在HD DVDとBlue-rayの双方が壮絶な覇権争いをしており、映像に関しては世間の注目も高いです。それにもかかわらず、ゲームではHD化に対する反応が薄いのはなぜなのか?ゲームと映像とで異なるところはどこなのか?表示対象となる大型ディスプレイとあわせて、少し考察してみたいと思います。

【購入層の違い】

映像機器とゲームではその購入層そのものが結構な違いがあります。まずは映像機器。中でも表示機器である大型ディスプレイから話をしましょう。
現在、大型FPD(液晶やプラズマ)が非常に好調に売れていますが、これらの購入層は主に富裕層やAVマニアです。30型前後のような、普及価格帯ではもっと普通の購入者も増えてきますが、特に、高い、大きな画面のものほど、その傾向が強くなります。
富裕層は、比較的自由に使える金額が多く、テレビにかかわらず、比較的何に対しても高額な商品を買う傾向にあります。しかし、こうした人は結構な歳を経ている人が多いです。子供がすべて大人となって独立したり、退職金や年金で金銭的に余裕ができた人々というのは、メーカーにとっては上質の顧客となるわけです。(実際、50型プラズマなどは、ヨドバシなどの量販店より、なじみの電気屋さんなどで購入される数が多い、という話からも、そうした富裕層による購入度合いが伺えます。)
一方、もう一つの人種はAVマニア、AVオタクです。こうした人たちは、社会人としてそれなりにお金はありますが、めちゃくちゃ余裕がある、というわけでもありません。しかし、こうした人種は、AV機器に関して一般層とはかけ離れた「物欲」を持っていたりします。Impressでよく記事を書いているスタパ斉藤なんかは典型的な例ですね。現在BDレコーダを持っている人も、そういった層でしょう。こうした人たちは、とにかく金額に関係なく「その時点で一番新しく、性能のよいモノを買う」という嗜好があるのです。こういった層は、放っておいても買っていきます。
映像機器についても、似たような傾向があります。DVDレコーダなどを見れば分かりますが、売り上げランキングなどで上位に来るのは価格が5万〜10万までの安い機器です。しかし、10万を超えるハイエンド機器にも確実に需要があり、その購入層は上記のような富裕層、AVマニアと重なっているのだと思います。HD DVD/BDなども、まだ商品は出ていませんがこの購入層とかさなると思われます。要するに、「いい映像を見るためにお金を惜しまない」わけです。

では、TVゲームの場合の購入者の場合はどうでしょう?そのメインのターゲット・購入層は、子供です。据え置き機の場合は比較的年齢が高くなりますけれど、それでもせいぜい大学生まで。所得をもっていない層が大半となります。社会人になってもやっている人はいますが、どうしても仕事で忙しくなる関係で、学生の頃ほどコアにゲームをプレイする人は少ないと思われます。
こうした層では、とてもじゃ無いですが、大型FPDなど買えません。せいぜい、20型前後の液晶テレビでしょう。それ以外の人は、まだまだ4:3のテレビを使っていると思われます。一人暮らしの学生などでは、14型テレビですませている人も結構いるのではないでしょうか?もちろん、親が家族のためにと大型ディスプレイを買っている場合はあるでしょうが、それは少数でしょうし、「たまたま家にあった」というだけにすぎません。
このような状態では、「ゲームのHD化」を目玉として打ち出したとしても、インパクトがなくて当たり前といえるでしょう。「既存で大型ディスプレイを持っているゲームユーザ」にしかメリットがないのですから。

【購入のモチベーションの違い】

それでは、次に「実際にHD化した機器を購入するかどうか」という、モチベーションについて考えてみましょう。

まず、現状の大型ディスプレイに対するモチベーション。これは基本的には「大画面で映像をみたい」というもの。既存のDVDを映画館のように見たい、というのもありますが、デジタル放送という強力なHDコンテンツがあるのも大きいですね。

HD DVDやBDのHD映像機器の場合も基本的には同じで、「大画面で美しい映像を楽しみたい」というものでしょう。
ただしHDの映像は、大型ディスプレイでないと楽しめませんから、大型ディスプレイがあることが前提となります。
逆に大型ディスプレイでは、通常のSDコンテンツの映像はあまり綺麗とはいえません。というのもやはり圧倒的に解像度が足らず、アップコンバートによってぼけた映像になってしまうからです。やはり大画面ディスプレイは、HD映像でこそ真価を発揮するものである訳です。大きく、美しい映像を見るために大金を出した層であれば、HD映像機器にも大金を払う可能性は十分にあります。

さて一方のゲーム機。同じ理屈で行けば、次世代ゲーム機の場合も「大画面で美しいゲームを楽しみたい」ということになります。大型ディスプレイを既に持っているなら、両者大きな差はありません。今あるテレビで綺麗な画質のゲームをしたい、と考えるのは妥当な欲求ですから。事実、PS2なんかは現状でもジャギだらけのままぼけて表示されてしまうので、大画面ディスプレイでやるには不満が大きいですし。

問題は大型ディスプレイを見る環境が無い場合です。
上記でも述べたように、大型ディスプレイを買うモチベーションと、HD映像機器を買う動機は近いものがあるのでまだ可能性があります。一方で、HDゲームをするために、大型ディスプレイを買う、という人がどの程度いるでしょうか?これは正直少ないように思われます。それはなぜかと言えば、ぶっちゃけ現時点では「ゲームを買う購入層では、大型ディスプレイは高くて買えない」からです。これは、上記の購入層の話を見ていただければ分かっていただけると思います。

もちろん、今後大型ディスプレイが低価格化してくれば、上記の購入層の話は大きく変わってきますし、それは地上デジタル放送がある限り必然的な流れかと思います。ですが、これはあくまで「必然的」なことであって、「目玉」ではないのです。あって当然しかるべき機能を、目玉としてアピールしてもらっても困ります。

【結論】

次世代ゲーム機でHD対応は自分は「必須」だと思います。これに対応していないゲーム機は、正直5年間戦うには実力不足でしょう。今後テレビを買い換える人の多くはHD対応のモノを買うのでしょうから。
ですが、次世代機を買うユーザは、基本的にゲームのためだけにテレビを買い換えることはまずありません。ですので、『ユーザが持っているテレビで、最大限に綺麗な映像を作れること』が、次世代機に求められる機能なのではないでしょうか。(そういった意味では、Xbox360の「16:9を前提としたゲーム作り」というのは非常にまずいと思います。)


発熱地帯さんの記事
で、「伝えにくい魅力をどうやって伝えるか」ということについて問題提起されていますが、たしかにその通りです。とりあえず、「HD化」については、ゲーム機の魅力を伝えるには不十分な要素だと思います。ちょうど、PCでもCPUのクロック周波数に限界が見えてきて、カタログスペックでのアピールが難しくなっており同様の問題に直面しています。こちらも、マルチコアやメディア処理などでアピールはしていますが、直感的に分からない、具体的になんのメリットがあるか分からないと言う点ではよく似ていますね。Xbox360は方々で「見た目からなにから、単なるPCじゃん」みたいに言われていますが、抱えている問題も一緒というのは皮肉なことです。

第一印象でいまいちな印象を与えてしまったマイクロソフト。これからどういった戦略をとってくるのか見物です。一方で、E3でPS3とレボリューションがどういった発表の仕方をするのかにも注目。今度こそ、ユーザに夢を見せてくれる発表であることを願います。